馬鹿とオートバイ

およそ分別のある大人なら善悪の区別は付く、という社会の建前だ。
その建前の上に作られる"法”はひとつの規範で、そこからはみ出したところで基本的に問題は無い。
検挙されることもあるが、されないことの方が圧倒的に多いのは周知の事実。

ただ、他との関係に於いて、相手との関係を良い状態で維持するために
お互いの妥協が必要なのは当然で、みんな探り探りその妥協点を見つける。
三者、さらにその第三者、という具合に複雑に絡み合う”他”との関係がある。

けだし、ラッシュアワーの都会の駅。地下コンコース。
ここに交通法規は無い。
(明文はあるが取り締まりがないため、実質皆無だ)
誰かに肩をぶつけないで歩くのは難しい。走るのは不可能だろう。
歩く、という妥協をしつつ、前を目指す。

そんな中、たまにコンコースをバタバタ走る馬鹿がいる。
ほんとの馬鹿。馬鹿は死ななきゃ直らない。

僕を含め、僕の友人にも馬鹿は多い。
馬鹿は後部座席の子供に手を振り、ニコリと笑い、ジャンケンをする。
馬鹿はイエローカットをしない。
馬鹿は割り込みの時後続にぺこりとお辞儀をし、道祖神に合掌する。
馬鹿は乱暴者をくじき、競争や競走をしない。
馬鹿に安全第一だ。
馬鹿ゆえ、馬鹿なりに、馬鹿に真面目にオートバイに乗る。
"ほんとの馬鹿"なら死んでも誰も惜しまないだろうし、
地下のコンコースで肩をぶつけまくってとっくに死んでいることだろう。

馬鹿。字に馬が含まれるけど、
無事故是名馬、である。
オートバイ馬鹿。